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インフレ話法の嘘

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ファイナンシャルプランナーとして活動していると、よく金融業界や不動産業界の営業マンが「日本はインフレになるので物価の上昇に備えましょう」「現物などの資産を持たないと危ないですよ」という話をしているところに遭遇します。果たしてこの考えは妥当なのでしょうか?

インフレとは

まず、インフレとはどのような状態を指すかについて軽くおさらいしておきましょう。

経済学では、一定期間にわたって経済の価格水準が全般的に上昇することをインフレーション(英語: inflation、物価上昇、インフレ)と呼ぶ。(中略)インフレーションは1単位の通貨あたりの購買力の低下、つまり経済における交換手段や会計単位の実質的な価値の低下を反映する。

定義は少し難しいですが、簡単に言うと「同じものを買うのにも多くのお金が必要になる」あるいは「同じ金額で買えるものが少なくなってしまう」ということになります。確かに家を買うにしても老後資金にしても、長期的に必要になるお金を貯めておいた場合、キチンと計算して貯蓄したのにいざ必要になった際にお金が足りないとなると困りますよね。
(引用: Wikipedia)

現実の世の中はどうなっているのか

では現在の日本において、将来にわたる持続的なインフレは実際に発生するのでしょうか? まず始めに、日本では現在インフレが起こっているのか、起こっているとするとどの程度なのかを確認してみましょう。
総務省統計局が発表している物価変動の時系列データを見ると、1970年~2020年の50年間で物価は約3.2倍にまで上昇しています。ここだけを見ると冒頭の主張は正しいように思えます。
引用元: e-Stat 消費者物価指数 ※持家の帰属家賃を除く総合指数(1947年~最新年)

しかし、、、

重要なのはここからです。数字の表面に捉われずデータを10年ごとに区切って見てみましょう。10年単位での物価上昇幅を時系列順に並べると、
1970年~1980年:+136%
1980年~1990年:+21%
1990年~2000年:+7%
2000年~2010年:-3%
2010年~2020年:+7%
となっています。これ以上の細かい数字は元データを見ていただくとして、バブル崩壊後の日本ではほとんどインフレは起こっていないということが分かります。
(実際、バブル崩壊が落ち着いた1993年から2020年までの30年弱で約5%しか物価は上がっていない)
またデータからは、
・安定成長期、バブル経済期の日本では確かにインフレが発生していた(20年で約3倍)
・バブル崩壊(1991年)以降、日本のインフレ率は極端に低下している
・バブル崩壊が落ち着いて以降の日本のインフレ率は年平均で0.2~0.3%程度
であることが読み取れます。

何が起こっているのか

インフレ発生メカニズムの説明は割愛しますが、少なくとも通常のインフレは経済成長に伴う形で発生するものであり、日本においても経済成長期には継続的なインフレが発生していましたが経済が低迷し始めてからのインフレ率はほぼゼロになっています。
また国内需要に直結する日本の総人口は2008年を境に減少に転じており、減少ペースも年々高まっているのが現状です。過去の経済成長期に毎年インフレしていたことを理由に、経済成長率がほぼゼロ、人口減少、超高齢社会が継続する現代の日本において継続的なインフレが発生するに違いないという推論は果たして妥当なのでしょうか。

結論

今後の日本が絶対にインフレにならないかどうかは分かりません(実際、2020年頃以降はやや物価上昇しているような傾向が見られます)。
ただ、ここまで見てきたように「資産形成にはインフレを織り込むべき」というのは自明なことではありません。プロセスを考えず答えに飛びつくことがいかに危険かということが示されたかと思います。
ではなぜ冒頭の営業マンは誤った知識を元にした営業トークを話すのでしょうか? 実は、多くの場合彼らもよく分かっていません。特に悪意もなく、覚えてきた受け売りの営業トークで誤った話をしているケースが多いようです。
営業を受ける際は、少しでも納得できない点はどんどん質問をしていきましょう。実力のあるFPはクリティカルな質問をされても狼狽えません。
大事なことは本当に信頼できるプロを見極め、情報提供をしてもらった上で自分の頭を使って考えることです。大事な自分の時間とお金です。ぜひ有効に使いましょう。


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